図書館司書さんのこと
学校図書館法の改正により、多くの学校で司書の配置が進んでいること自体は歓迎すべきことですが、皆さんはその待遇をご存じですか?
もちろん、しっかりと専任職員として雇用されている場合もゼロではありませんが、そのほとんどは「短時間有期雇用職員」つまり不安定雇用のパートさんです。東京大学の規定では「事務補佐員」の処遇となり、コンビニアルバイトとあまり変わらないような時給です。
附属学校の場合は、司書教諭と連携して、図書館を使った授業の支援、卒業研究や総合学習入門など生徒個別の探究学習支援、生徒会図書委員会の指導など、一般に司書としてイメージされる「本を整理したりカウンターで貸し出したりする」業務の何倍も負担がかかっています。左の写真のように、直接の授業サポートのほかにも「いまこんなことに取り組んでいるんです」とお話しをすると、すぐに特設コーナーを拵えてくださったりするのです。開架にあるものを集めているだけじゃないんですよ。敢えて書庫に保管してあるものから、大学や近隣の公共図書館にレンタルお願いしたものまで…
正直とても規定の待遇でお願いできる業務ではありません。高度な専門性が必要なうえに、思春期の多様な生徒ひとりひとりと寄り添える豊かな人間性がなければ到底務まるものではありません。しかしそんな条件でもこれまで本校では、優れた力量と経験を併せ持ったお二人の司書さんが、ずっと支えてくださってきました。「ほかの学校では経験できないことだから」と、やり甲斐をモティべーションに歯を食いしばってきてくださったのです。お二人とも他地域の学校では司書教諭としてお勤めになった経験があり、教育委員会の一員として多くの学校図書館に指導助言を行う立場も経験されているのに、です。
待遇改善を大学に働きかけてきましたが、教育学部の司書さんもほとんどは事務補佐員なので、待遇に差があること自体がなかなか受け入れられない訳です。しかし粘り強く交渉をすすめることで、数年目にしてひとつめの歯車がカチリと動きました。
まずは時給単価の改善です。もちろん大学からは同じ事務補佐員の待遇に差をつける訳にはいかないので学校からの持ち出しですが、教育後援会負担による上乗せが可能になりました。「校納金」として各家庭からいただいている、後援会費です。渋谷区立図書館のパート司書の3/4程度の時給でしたので、せめて同等にということで差額の補填です。
その間、国立大学の附属学校間でも連携をとり、「全国国立大学附属学校園連絡協議会」に司書教諭・司書が特別部会を立ち上げ実践交流と情報交換を活発に行う機運が生まれるとともに、各大学の副学長クラスが集まる会議資料に「人材確保のために、時給1,700~1,800円以上の条件提示が必要と言われている。」と書き込むことに成功しました。これで各学校における交渉の力強い追い風となるはずです。
さらにです、東京大学教育学部さすがです。前校長先生・現校長先生・学部長先生が一緒になって事務方と交渉に立ち上がってくださったのです。今年いっぱいで定年の本校事務長・学部事務長さんも「置き土産に」と呼応してくださり、学部事務の皆さんが一体となって改善の仕組みの実現に力を貸してくださいました。歯車がもう数駒カチリカチリと回りました。
この7月に東京大学にできたばかりの「職域限定職員」制度を活用し、60歳以降の再任用も可能な安定した身分での雇用が実現することになりました。教育・研究を支援する「学術員」としてです。年俸制でその額は決して充分なものとは言えませんが、規定額より二割五分増しで教育学部が直接補填してくださいました。
他大学の附属でも後援会による補填、時給の高い「教務補佐員」としての雇用、奨学寄付金を活用した「研究員」としての雇用など、少しずつですが多様な試みが生まれています。本校でもさらなる待遇改善に向けて次の作戦を考えています。また歯車が回る音をお知らせできると嬉しいです。 (文責:淺川)