教育学部ホームカミングデイ「ウィズコロナ・ポストコロナの教育を考える」

副校長より

去る10月17日(土)、全学的にホームカミングデイが取り組まれました。
教育学部でも初のリモート開催で「ウィズコロナ・ポストコロナの教育を考える」というウェブシンポジウムがおこなわれました。(以下報告の内容は、あくまで淺川の理解によるものです)

はじめに身体教育学コースの山本義春先生から「リモートワークと心身の健康」という報告がなされました。
これは、ウェアラブル端末を用いた精度の高い行動調査を、たまたま府中市の事業所につとめる従業員対象にコロナ以前から行っていたものを、リモートワーク環境下でも延長したものだそうです。なんと坐りっぱなしの時間が一日平均2時間も増加し、これは死亡率を1.5倍に高めてしまうリスク増で、非喫煙者が喫煙者になるぐらいのインパクトだそうです。また、通勤時間がなくなったため睡眠時間は50分も増えましたが、就寝起床の時刻が大きくばらつき、中長期的な心身の健康に重大な影響を与えそうだということも分かりました。また附属学校で例年取り組まれている調査では、スクリーンタイムの長さと心の不安定・抑鬱傾向の間には明確な相関が見られることから、休校・分散登校期間を通しての生徒の生活習慣が、どのようになっていたか懸念されるという指摘がありました。

続いて本校淺川が「関わりをいかに保障するのか~中高生の学びとコロナの時代~」として報告。前半部分は本校の先生方が提供してくださったリモート学習の実践報告を整理して、国立情報学研究所『4月からの大学等遠隔授業に関する取組状況共有サイバーシンポジウム』で発表したものを下敷きに、様々な課題と可能性について述べました。後半部分は登校再開から体育祭・銀杏祭までを通して、リモートでは共有できない「目を合わせる」「息を合わせる」「身振り手振り」といったノンバーバルコミュニケーションや、「いま、ここに、ともにある」という感覚が青年前期の若者たちや子どもにとっては決定的に重要なのではないかという問題提起と、「“失われた授業時間の取り戻し”ではなく、“失われた子どもの時間”の取り戻しこそが教育の課題」で、限られた条件の中でも生徒・教員・保護者で行事の創造と(遠隔ながらも)共有に取り組めた意義は大きかったと報告しました。

後半部分のプレゼン資料はこちら。

さらに昨年まで校長を務められた、学校開発政策コースの勝野正章先生がご登壇、「コロナ禍と子どもの権利」というテーマでお話になりました。コロナ禍のもと、「子どもの生命・健康への権利」が第一義に守られなければならないのは当然のこととして、「文化的権利」「市民的・政治的権利」は疎かになっていないか、という問題提起でした。
国立成育医療センターによる聴き取り調査や、国連・子どもの権利委委員会がいち早く発した警告を踏まえ、子どもたちが「共に遊び、共に学ぶ権利」「豊かな文化・芸術に触れ楽しむ権利」が著しく制限されたまま省みられない現状や、とりわけ「コロナ感染症について正確な知識を受け取り、その対応の意思決定に関して意見を訊き考慮されるべき存在である」ことが、ほとんど意識されていない現実について警鐘を鳴らされました。

さいごにまとめをかねて、教育学部長・教育学研究科長の秋田喜代美先生が「コロナ禍の学校教育:ネットワークが生み出すエンパワメント」についてお話になりました。国内の教員への調査の中で、非常に大きなストレスがかかっている深刻な現状がある一方、教育観の転換という意味では積極的に評価できる兆しが見えたこと、さらにOECDが想定しているポストコロナの4つのシナリオをご説明くださいました。
① 学校教育は以前の姿に回帰していく
② デジタル技術によって教育の多様化・市場化が加速し、学校制度は崩壊する
③ 学校が地域・社会に向けて開かれ、体験的学習や市民活動・SDG’s推進の場として活かされる
④ 学校制度が消失し、生涯学習オンデマンド化がすすむ
そして、本校4年生の楳原まひろさんも参加し英語でプレゼンテーションをおこなった、OECD生徒国際イノベーションフォーラム2020(世界9カ国、200人の中高生と100人の教員・研究者が参加)においては、①の従来の学校が持つ良さを活かしながら、③の開かれた場所への転換を図っていく方向について熱い議論が交わされたそうです。これは本校が現在取り組んでいる「アート・クロスロード」の取り組みや、東京大学のキャンパス・リノベーションの理念とも合致しており、大変勇気づけられる内容でした。

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